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浦和地方裁判所 昭和35年(行)5号 判決 1963年1月30日

原告 山本茂 外二名

被告 埼玉県人事委員会

主文

原告等の請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

事実

第一、当事者の求める裁判

一、原告等

被告が、原告等に対して、昭和三五年六月一七日にそれぞれなした原告等の地方公務員法第四九条に基く不利益審査請求を却下した決定は、これを取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決。

二、被告

主文同旨の判決。

第二、原告等の請求原因

一、原告山本、同米山は、埼玉県立松山高等学校教諭として、同青木は与野市立西中学校教諭として、埼玉県内の公立学校に勤務する教育公務員である。

二、昭和三五年一月当時、原告山本は二等級一七号給で本俸二七、〇六〇円、扶養手当一、六〇〇円を支給され、同米山は二等級一四号給で本俸二三、九二〇円、扶養手当一、四〇〇円、夜勤手当九五六円を支給され、同青木は、二等級一八号給で本俸二四、四四〇円、扶養手当一、六〇〇円、暫定手当一、一四〇円を支給されていたものである。

三、ところが、昭和三五年一月分の給与の支払日である同月二一日、原告山本は二六、六〇五円を、同米山は二四、四五九円を、同青木は二五、九五八円を、それぞれ支給されたに過ぎなかつた。そこで、原告等がその理由を質したところ、原告等は懲戒処分(減給)中だとのことである。

四、しかし、原告等は懲戒処分を受けたことはないので、右の給与の減額支払措置(以下減額措置と略称)を違法と考え、右減額措置を不利益処分として、同年二月一七日、別紙「審査請求書」の方式で、地方公務員法(以下地公法と略称)第四九条に基く審査請求を被告に対して行なつた。これに対し、被告は、同年六月一七日、原告等の審査請求を、別紙「却下通知書」記載のとおり、却下した。

被告の却下理由は、原告等に対する減額措置は、昭和三四年一二月一四日付で埼玉県教育委員会から各原告に対してなされた給料月額の二〇分の一に相当する額を二月間減給する旨の懲戒処分(以下減給処分と略称)に基くものであるから、審査請求は懲戒処分たる右減給処分に対してなされるべきで、減額措置それ自体は、地公法第四九条にいう不利益処分ではないというのである。

五、しかし、右却下処分は、次の理由により違法である。

(一)  地公法第四九条にいう不利益処分とは、法律行為的行政行為のみならず準法律行為的行政行為や事実行為であつても、それが公務員に不利益を及ぼす措置である以上、それをも含むものである。単純な事実行為については、公定力がなく訴願前置の制約を受けず直ちに訴訟を提起できるが、地公法第四九条はかかる場合にも審査請求を認めて、簡易迅速な救済方法を設けたものである。すなわち、審査請求の制度は、公務員から争議権を奪つたことの代償として公務員に対する一切の不利益な措置に迅速な救済を与えることを目的とした制度である。被告の却下処分は地公法第四九条の解釈を誤つた違法がある。

(二)  原告等の被告に対する審査請求は、第一次的には事実行為としての減額措置の違法を主張したのであるが、減給処分が行われたらしいことを察知していたので、審査の過程で減給処分の行われたことが判明した場合には、第二次的に減額措置の基礎である減給処分をも争う意味で、審査請求書に「給与支払減給処分」の取消を求める旨表示したのである。従つて、減給処分も審査請求の対象となつているにも拘らず、減給処分について判断することなく原告等の審査請求を却下したのは違法である。

(三)  仮に、右の表示が曖昧であつたとしても、被告は、求釈明や補正命令によつて容易に審査請求を適法なものとなし得るにも拘らず、これらの措置をとることなく直ちに却下したのは、著しく不当であり、違法である。

すなわち、審査請求は、地公法第四九条に明らかな如く、請求期間に制限があり、しかも審査請求は行政事件訴訟特例法第二条の訴願に当るから、その却下は公務員にとつて極めて重大な影響をもつものである。そのために、不利益処分の審査に関する規則(昭和二六年八月一三日埼玉県人事委員会規則二―一)第七条第二項第三項は、審査請求書に不備な点があると認めるときは、補正を命じ或は自ら職権で補正することができ、所定の期間内に補正しない場合に却下できるとしているが、これは却下するためにはその前提として補正を命ずべきことを人事委員会に義務づけたものである。本件の却下処分は、右規則第七条第二項第三項に違反するものである。

(四)  昭和三五年一月、原告等の他に、訴外飯塚堅一(県立川口工業高校教諭)も減額措置を受けたのであるが、同人の被告に対する審査請求は原告等の審査請求と全く同一の事情にあるにも拘らず、右飯塚の審査請求は受理され現在審理中であるのに対し、原告等の審査請求は却下された。これは、人事の基本原則である公正の原則(地公法第二七条第一項)に違反し、違法である。(尚、本件却下処分の後、原告等が改めて前記減給処分に対して地公法第四九条の審査請求をしたが、法定期間徒過を理由に却下された。)

六、以上の理由により、本件却下処分は違法であるから、取り消されるべきである。

第三、請求原因に対する被告の答弁

一、請求原因一ないし三項は認める。請求原因四項のうち、原告等が懲戒処分を受けたことがないとの点は争い、その余の事実は認める。原告等は昭和三四年一二月一四日付で埼玉県教育委員会から減給処分を受けている。

二、請求原因五項は争う。被告のなした却下処分は次の理由により正当である。

(一)  被告が原告等の審査請求を却下したのは、その対象である減額措置が事実行為ないし準法律行為的行政行為であるとの理由ではなく、減額措置は減給処分の実施に過ぎないのであるから、減給処分を取り消さない限り減額措置そのものを取り消すことは法律上無意義であるとの理由によるものである。減給処分は地公法第四九条の不利益処分に該当するが、減額措置そのものは右不利益処分に該当しない。

(二)  原告等は、審査請求として、第一次的には減額措置を、第二次的には減額措置の基礎である減給処分を対象としたものであると主張するが、審査請求書には、審査の対象となる処分は「昭和三五年一月二一日なした給与支払減給処分」と記載されており、昭和三四年一二月一四日の減給処分を対象とするものであるとは到底認められない。従つて、減給処分について判断しなくても、判断の遺脱はない。

(三)  更に、原告等は釈明義務違反を主張するが、原告等の審査請求は、形式的には欠けるところがなかつたので補正を命ずる余地がなかつたのみならず、昭和三四年一二月一四日の減給処分については、既に地公法第四九条所定の審査請求の期間を経過していたので、これを補正によつて適法化することはできない状態であつた。

更に、原告等の審査請求は、請求書の全趣旨から、減額措置についての審査請求であると解されるのみならず、減額措置は地公法第四六条の対象であり、減給処分は同法第四九条の対象であるから、これを併せて審査することはできない。

以上のように、本件の審査請求については、補正の余地がなかつたのであるから、釈明義務違反とはいえない。

(四)  訴外飯塚の審査請求は、懲戒処分の取消を求めたものであつて適法な請求であつたのでこれを受理したのであつて、原告等と同じ請求であるにも拘らずこれを受理したのではない。請求の対象が異るのである。(尚、原告等は、本件却下処分の後、懲戒処分たる前記減給処分に対し地公法第四九条の審査請求をしたが、法定期間経過後の請求であつたのでこれを却下したことは認める。)

従つて、被告のなした処分は、何等公正の原則に反するところはない。

三、以上の如く、被告のなした右却下処分は正当であるから、右処分の取消を求める原告等の請求はいずれも失当として棄却されるべきである。

第四、証拠<省略>

理由

一、原告山本、同米山が埼玉県立松山高等学校教諭であり、原告青木が与野市立西中学校教諭であつて、いずれも埼玉県内の公立学校の教育公務員であること、昭和三五年一月当時、原告山本は二等級一七号給で本俸二七、〇六〇円、扶養手当一、六〇〇円を、原告米山は二等級一四号給で本俸二三、九二〇円、扶養手当一、四〇〇円、夜勤手当九五六円を、原告青木は二等級一八号給で本俸二四、四四〇円、扶養手当一、六〇〇円、暫定手当一、一四〇円を、それぞれ支給されていたものであること、ところが、昭和三五年一月分の給与の支払日である同月二一日原告山本は二六、六〇五円、同米山は二四、四五九円、同青木は二五、九五八円をそれぞれ支給されたに過ぎなかつたこと、これに対して同年二月一七日原告等が別紙「審査請求書」の方式で地公法第四九条に基く審査請求を被告に対して行なつたところ、同年六月一七日被告は原告らの審査請求を、別紙「却下通知書」記載のとおり、却下したことは、当事者間に争いがない。

二、そこで右却下処分の適法性について判断する。

(一)  別紙「却下通知書」の記載によれば、被告が原告等の審査請求を却下したのは、その対象である減額措置が事実行為ないし準法律行為的行政行為であるとの理由によるのではなく、減額措置は減給処分の実施に過ぎないのであるから減給処分を取り消さない限り減額措置を取り消すことはできないのであつて、減給処分をそのままにしておいて減額措置のみを争うことが法律上無意味であるので、減額措置そのものは地公法第四九条の措置要求の対象とはならない、との理由で却下したものと解するのが相当である。ところで、事実行為ないし準法律行為的行政行為は全て地公法第四九条の措置要求の対象とならないと解することはできないが、減給処分の存在する場合には、全く機械的に減額措置が講じられなければならないのであり、かかる場合に減給処分とは独立に減額措置のみを争うことは法律上無意味であり、又、減給処分が存在しないにも拘わらず給与が減額支給された場合には、当該公務員は差額について実体法上の給与支払請求権を有するからこれを行使することができるのであつて、地公法第四九条はかかる場合にまで公務員であるが故に一般に認められる請求権の行使の他に更に不利益処分の審査請求を認める趣旨ではない、と解するのが相当であるから、いずれにせよ、減額措置は地公法第四九条の不利益処分に該当しないものというべきである。従つて、被告が減額措置は地公法第四九条の不利益処分の審査請求の対象とならないと解したのは、正当である。

(二)  原告等は、第一次的には減額措置そのものを審査請求の対象としたのであるが、第二次的には減額措置の基礎である減給処分をも審査請求の対象としたものである、と主張する。然し、別紙審査請求書の記載によれば、「処分の性質および処分を受けた年月日」として「昭和三五年一月二一日になした給与支払減給処分」とあり、又、「処分に対する不服の理由」としては「給与減給支払処分を受ける理由は全くないしまた手続的にも違法である・・・」とあるのであつて、昭和三四年一二月一四日の減給処分をも審査請求の対象としたものであるとは到底解し得ない。従つて、被告が減給処分について判断しなかつたことを以て、判断の遺脱ということはできない。

(三)  更に、原告等は釈明義務違反を主張するが、原告らが審査請求したのが昭和三五年二月一七日であることは当事者間に争がないのであるから、昭和三四年一二月一四日の減給処分については、既に地公法第四九条所定の審査請求の期間を徒過しており、これを補正によつて適法化する余地のない状態であつた。従つて、減給処分をも審査請求の対象とするか否かについて釈明しなかつたことを以て、不利益処分の審査に関する規則(昭和二六年八月一三日埼玉県人事委員会規則二―一)第七条第二項第三項に違反するということはできない。

(四)  昭和三五年一月、訴外飯塚堅一も減額措置を受けたこと、及び同人が減額措置に関して被告に審査請求をしたところ被告がこれを受理したことは当事者間に争がない。ところで、成立に争のない乙第六号証によれば、飯塚の審査請求は、「処分の性質および処分を受けた年月日」としては「昭和三四年一二月一四日付で同年同月二一日なしたといわれている・・・処分・・・」を主張し、「請求の内容」も「懲戒処分取消請求」であることが認められる。従つて、被告が右請求は懲戒処分を争つているものと解してこれを受理したのは正当である。原告等は、右の飯塚の審査請求は受理し、原告等の審査請求を却下したのは公平の原則に反すると主張するが、請求の内容が飯塚の場合は懲戒処分の取消であり原告等の場合は懲戒処分たる減給処分ではなく減額措置の取消であつて、両者は異なる請求であるから、取扱を異にしたのは当然であつて、これを以て公平の原則に反するものということはできない。

三、以上の如く、被告のなした右却下処分には何ら違法な点はないのであるから、右処分の取消を求める原告等の請求はいずれも失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡咲恕一 吉村弘義 篠田省二)

(別紙)

審査請求書

収第 号 35・2・17 埼玉県人事 委員会

昭和三十五年二月十七日

請求者 (各原告の氏名) <印>

埼玉県人事委員会委員長殿

地方公務員法第四十九条に基き左記のとおり審査を請求します。

なお、別紙のとおり処分説明書の写をそえます。

〔各原告の氏名 生年月日 住所 職 所属部局〕

一、処分を受けた者の氏名

生年月日

住所

二、処分を受けた当時の職

所属部局

三、処分者の職および氏名        埼玉県教育委員会

四、処分の性質および処分を受けた年月日 昭和三十五年一月二十一日になした給与支払減給処分

五、請求の内容             給与支払減給処分取消請求

六、処分に対する不服の理由       給与減給支払処分を受ける理由は全くないしまた手続的にも違法であるから

その取消を求めるものである。

七、審理方法の種類

書面審理・非公開口頭審理・〇公開口頭審理

八、処分説明書受領年月日 昭和三十五年二月一日

処分説明書の交付を請求した年月日

九、代理人の氏名

生年月日 大正十三年五月九日

戸田謙 住所   東京都中野区野方町一の七二八

職業   弁護士

生年月日 昭和五年十二月二十九日

尾山宏 住所   東京都練馬区石神井一の一六二

職業   弁護士

(別紙処分説明書)……省略

三五埼人委収第 号

却下通知書

貴殿の昭和三十五年二月十七日付審査の請求は、左記の理由により却下します。

請求者は、昭和三十五年一月二十一日に給与が減額支給されたことを不服として、地方公務員法第四十九条の規定に基づき不利益処分に関する審査の請求をしているものである。

右について、当委員会が調査したところ、請求者は、昭和三十四年十二月十四日付で、埼玉県教育委員会から、地方公務員法第二十九条第一項により懲戒処分(給料月額の二十分の一に相当する額を二月間減給)を受け、この処分に基づき、昭和三十五年一月二十一日に、同年同月分の給料を減じて支給されたことが認められた。

従つて、本件請求は、右昭和三十五年一月分の給料の減額支給を不服としているものと認められるが、このことについては、その前提をなす懲戒処分の審査請求をなすべきものであつて、本件請求の如く、懲戒処分に基づいてなされた給料の減額支給それ自体は、地方公務員法第四十九条の規定に基づく不利益処分に関する審査の請求の対象とはならないものと解する。

よつて本件請求は受理することができない。

昭和三十五年六月十七日

埼玉県人事委員会委員長 水野六郎 <印>

(各原告の氏名) 殿

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